前回、親のスマホに入れる詐欺対策アプリと固定電話の国際電話ブロックの記事を書きました。お盆で実家に帰るなら、詐欺対策と一緒にもうひとつだけやってほしいことがあります。
それが「親のお金の棚卸し」。親がどこに、どんなお金や資産を持っているのかを、ざっくり把握しておくことです。じつは私たち夫婦はそろって看護師で、認知症の患者さんを現場でたくさん見てきました。そのうえで痛感しているのが——認知症になると、親のお金は家族でも動かせなくなるという現実です。
お金を「貯める・増やす」だけでなく、大切な人の資産を「守る」ためのお話。重い話に聞こえるかもしれませんが、元気な今だからこそ、笑いながらできることばかりです。

相続の話ってタブーな感じがして、なかなか切り出せないですよね。でも「認知症になってから」では遅いんです。看護師として、それを何度も見てきました。
なぜ「お盆に」親のお金の棚卸しなのか
認知症になると、銀行口座は凍結される
あまり知られていませんが、認知症などで判断能力が低下すると、銀行はその人の口座を凍結することがあります。窓口での様子から銀行が気づいた時点で、本人であっても引き出しや振込ができなくなるのです。家族が「介護費用を親の口座から出したい」と思っても、勝手には動かせません。
- 認知症の高齢者は65歳以上の約5人に1人(2025年に約700万人規模・厚労省推計)
- 判断能力が低下すると、銀行が本人の口座を凍結することがある(家族でも引き出せない)
- 凍結後の対策は成年後見制度が中心 → 利用開始まで3〜4か月
- 「家族信託」「任意後見」などの事前対策は親が元気なうちにしかできない
凍結された後の対策は、原則「成年後見制度」を使うことになりますが、利用開始まで3〜4か月かかり、いったん始めると原則やめられない・費用もかかる、といった負担があります。だからこそ、元気なうちの「事前対策」がものを言います。
看護師の私が、現場で見てきたこと
認知症は、ある日突然ではなく、少しずつ進みます。「この前まで普通に話せていたのに」という変化を、私は病棟で何度も見てきました。ご家族が「親の通帳がどこにあるか分からない」「ネット銀行に口座があるらしいけどログインできない」と困り果てる場面も、めずらしくありません。お金の情報は、本人しか知らないことが本当に多いのです。
帰省のタイミングだから、顔を見て話せる
お金や終活の話は、電話やLINEでは切り出しにくいもの。お盆で顔を合わせる今が、いちばん自然に話せるタイミングです。
我が家はいま、こんな感じです
参考までに、我が家の現状も正直にお話しします。私の実家は、両親ともまだ60代になったばかり。お金や終活の話は、実はこれからです。判断力がしっかりしている今のうちにと思って、この夏あたりから少しずつ切り出してみようと考えています。
一方で、夫の両親(義両親)は、すでに公正証書で遺言を作成済み。私は嫁の立場なので前に出すぎず、こうした話は夫や夫のきょうだいが中心になって進めてくれていて、その点はひとまず安心しています。立場によって「自分がやること」と「任せること」が違うのも、実際やってみて感じるリアルなところです。

自分の実家は自分が、義理の家は配偶者が主役。この線引きをしておくと、家族みんなが動きやすいなと実感しています。
【チェックリスト】親のお金、どこに何がある?
「全部きっちり聞き出す」必要はありません。「どこの銀行を使ってる?」くらいの軽い確認で十分。まずは”ありか”を家族が知っておくことがゴールです。下のリストを、親子で埋めるつもりで見てみてください。
- ☐ メインで使っている銀行・支店(通帳・キャッシュカードのありか)
- ☐ ネット銀行(楽天・住信SBIなど)の有無とログイン情報の在り処
- ☐ 公共料金・年金が入る口座はどれか
- ☐ 証券口座(NISA・iDeCo含む)を持っているか
- ☐ 証券会社名とおおよその残高
- ☐ 生命保険・医療保険・火災保険の加入先
- ☐ 保険証券のありか・受取人は誰か
- ☐ 受け取っている年金の種類(国民年金・厚生年金など)
- ☐ 年金が振り込まれる口座
- ☐ 自宅や土地の名義(登記)
- ☐ 住宅ローン・借入・保証人になっていないか
- ☐ スマホのロック解除方法(万一のとき家族が開けるか)
- ☐ 有料サブスク・スマホ決済・ポイント残高

全部を一気に聞くと親が身構えるので、我が家は「まず銀行だけ」。次の帰省で保険、その次で…と、1回1テーマにしています。これなら重くならないですよ。
元気なうちに知っておきたい”備え”(※専門家に相談を)
棚卸しの次のステップとして、こんな備えがあることも頭の片隅に置いておくと安心です。どれも「親が元気なうち」しか使えないのがポイント。下の図のように、認知症になってからでは選択肢がぐっと狭まります。
- お金の棚卸し
- 当面資金を家族側で確保
- 家族信託
- 任意後見・代理人カード
- 公正証書の遺言
- エンディングノート
- 成年後見制度のみ
- 利用開始まで3〜4か月
- 費用がかかる
- 原則やめられない
- 使い道にも制限
ただし手続きや向き不向きは家庭ごとに違うので、実際に使うときは司法書士・弁護士・銀行などの専門窓口に相談してください(ここでは”こういう選択肢がある”という紹介にとどめます)。
まず”当面の資金”を家族側に確保しておく(いちばん手軽)
制度の話の前に、誰でも今日からできる、いちばん現実的な備えを紹介します。それが「当面の資金を家族側で用意しておく」ことです。
万一、親の口座が凍結されても、数年分の介護費・葬儀費くらいを家族側で別に準備しておけば、「お金が動かせなくて詰む」という最悪の事態は避けられます。我が家も、いざ親の口座が使えなくなっても当面はしのげるように備えておこうと考えています。大金である必要はなく、「当座しのげる額を家族で決めておく」だけでも、安心感がまるで違います。
家族信託|元気なうちに管理を家族に託す
親が元気なうちに、財産の管理を信頼できる家族に託しておく仕組みです。家庭裁判所が関与しないため管理の自由度が高く、認知症になっても口座凍結を避けて介護費用などを動かせるのがメリット。契約には費用がかかるので、資産規模に応じて検討します。
任意後見・代理人カード|もっと手軽な備え
「任意後見制度」は、元気なうちに”将来の後見人”を自分で決めておける制度。もっと手軽なものとして、銀行によっては家族が代理で手続きできる「代理人カード」や代理人指名サービスを用意しているところもあります。まずは親のメインバンクに聞いてみるのが第一歩です。
公正証書の遺言+きょうだいの話し合いで”相続のモメごと”を防ぐ
もう少し先の話として、遺言があると相続はぐっとスムーズになります。とくに公正証書で作った遺言は、形式の不備で無効になりにくく安心です。夫の両親はこれを作成済みで、我が家はその点ひとまず安心しています。
そして意外と見落としがちなのが、きょうだい(相続人)どうしの事前の話し合い。相続でモメる原因の多くは「聞いていなかった」です。私にもきょうだいがいるので、親のことはきょうだいとも早めに方針を共有しておこうと思っています。元気なうちに家族みんなで話しておくと、後々の負担もトラブルも、ぐっと減ります。
まずはエンディングノートから
制度はハードルが高い、という場合は市販のエンディングノート(数百円)から。口座・保険・連絡先を1冊に書いておくだけでも、いざというときの家族の負担がまるで違います。親へのプレゼントとして渡すのも自然です。
もし整理できないまま…”あとから調べる”公的な制度
ここまで「元気なうちに」の話をしてきましたが、現実には、何も整理できないまま親が急に亡くなったり、認知症になったりすることもあります。そんなときのために、“あとから調べられる”公的な制度も知っておくと安心です。ただし手間・費用・時間がかかり、万能ではありません。じつは「だからこそ生前の棚卸しが一番」という、裏返しの話でもあります。
- 生命保険:生命保険契約照会制度(生命保険協会)/Web6,000円・書面7,000円(2026年4月〜・親族1名・税込)
- 証券・株:証券保管振替機構「ほふり」の開示請求/1件6,050円(税込)で口座のある証券会社が判明
- 銀行預金:一括照会の制度なし。マイナンバー紐付け(預貯金口座管理制度)か、各行に個別照会
生命保険|「生命保険契約照会制度」で一括照会できる
亡くなった(または認知判断能力が低下した)親族がどの生命保険会社と契約しているかを、生命保険協会にまとめて照会できる制度です。政府広報オンラインでも案内されていて、保険証券が見つからなくても加入の有無が分かるのが心強いところ。
料金は2026年4月の改定で、WEB申請6,000円・書面申請7,000円(対象の親族1名あたり・税込)になりました。以前は3,000円でしたが値上げされているので、古い情報にご注意を。なお、災害で亡くなった場合の照会は無料です。
証券・株|「ほふり(証券保管振替機構)」で口座を特定
「株を持っていたはずだけど、どこの証券会社か分からない」というとき。証券保管振替機構(通称ほふり)への「開示請求」で、故人が口座を持つ証券会社・信託銀行が分かります。料金は1件6,050円(税込)、結果は1か月ほどで届きます。ただし分かるのは証券会社名までで、銘柄や残高までは出ません。
銀行預金|じつは「一括照会」の制度がない
意外に思うかもしれませんが、銀行預金には、生命保険や証券のような全国一括の照会制度がありません。手がかりは主に2つです。
- マイナンバーと口座を紐付けていた場合:2024年に始まった「預貯金口座管理制度」で、相続人が口座情報の提供を受けられる(※故人が生前に登録している必要あり)
- 心当たりの銀行に1行ずつ照会:思い当たる銀行それぞれに、相続の口座照会(残高証明)を請求する(どうしても手間がかかる)
つまり銀行だけは”あとから”が特に大変。だからこそ、この記事のいちばん最初のチェックリストにあった「どこの銀行を使ってる?」を生前に聞いておくことが、実はいちばん効くのです。

調べていて驚いたんですが、保険や証券は後から一括で分かるのに、銀行だけは制度がないんです。「まず銀行から棚卸し」を強くおすすめする理由が、まさにこれでした。
親に嫌がられない「切り出し方」
いちばんの難関は、最初のひと言かもしれません。我が家で意識している切り出し方を紹介します。
- 自分の話から入る:「私も終活ノート書き始めたんだ〜。お父さんたちのも一緒にやらない?」
- 詐欺・防災にからめる:「最近詐欺こわいから、もしもの時に困らないように口座だけ教えといて」
- 手続きを口実にする:「マイナンバーカードの更新ついでに、保険とか一緒に見とこ」
- お金の”額”は聞かない:残高より「どこにあるか」。詮索された印象を与えないのがコツ
嫁・婿の立場なら、配偶者を”主役”に
ひとつ注意したいのが、義理の親(配偶者の親)のケースです。嫁・婿がお金の話にガンガン踏み込むと、良かれと思っても角が立ちやすく、「財産をあてにしている」と誤解されることもあります。
我が家では、義両親まわりの話は夫を主役にしています。私は前に出ず、お盆や法事で夫のきょうだいが集まったタイミングで自然に話が進むように。直接聞くより「配偶者経由」「きょうだいが揃った場」のほうが、ずっとスムーズだと感じています。

「財産をあてにしてる」と思われたら台無し。だから我が家は必ず「お父さんお母さんが困らないように」を主語にします。実際そのとおりですしね。
一番大事なのは、やっぱり家族の会話
詐欺対策アプリも、固定電話の設定も、お金の棚卸しも——突きつめると、行き着く先はいつも同じです。「困ったら家族に相談できる関係」があるかどうか。
お金の棚卸しは、財産を守る作業であると同時に、「あなたのことを気にかけているよ」と伝える時間でもあります。看護師として最期の場面に立ち会うたび、「もっと家族で話しておけば」という後悔の声を聞いてきました。だからこそ、元気な今、笑いながら話せるうちに。この夏の帰省が、そのきっかけになればうれしいです。

お金の話をした日、なぜか親とすごく穏やかな時間が流れました。守るって、結局は「大切に思ってる」を形にすることなんだなと思います。
まとめ|お盆にできる”親のお金の守り”
- 認知症になると口座は凍結され、家族でも動かせなくなる(事後対策の成年後見は3〜4か月)
- まずは「どこに何があるか」の棚卸し。銀行→保険→…と1回1テーマでOK
- 制度の前に、数年分の介護費・葬儀費を家族側で確保しておくのが一番かんたんで効く
- 家族信託・任意後見・代理人カード・公正証書遺言は元気なうちだけ。使うときは専門家に相談を
- きょうだい(相続人)とも早めに方針を共有してトラブルを防ぐ。義理の親は配偶者を主役に
- 万一整理できなくても生命保険(照会制度)・証券(ほふり)は後から調べられる。でも銀行預金は一括照会がない=生前の棚卸しが最強
- 一番の対策は「お金の話を、家族で普通にできる関係」
この夏の帰省で、ほんの15分。親と”お金の地図”を一緒に開いてみてください。それが、大切な家族と資産を守る力になります。
※本記事は制度の一般的な紹介であり、個別の法律・税務の助言ではありません。認知症の推計値は厚生労働省、口座凍結・後見制度は法務省・全国銀行協会、照会制度は生命保険協会・政府広報オンライン・証券保管振替機構等の公表情報を参考にしています(2026年7月時点・料金や制度は変わることがあります)。図解は各公表情報をもとに当ブログで作成。実際の手続きは専門家・各窓口にご確認ください。





